【書評】「ここらで広告コピーの本当の話をします。」(小霜和也)

マーケティング

タイトルはキャッチーですが、書かれている事は至ってまっとうで、基本的な広告コピーの役割と、それを作るための広告クリエイターとしてのあるべき仕事の取り組み方が書かれています。自身も、広告代理店勤務時代、コピーライディングに関する本はいくつか読んで来ましたが、コピー単体ではなく、広告の中におけるコピーの位置づけを整理するため本書を手に取りました。

著者は、元博報堂のコピーライター小霜和也氏。プレステの「共闘」先生のクリエイティブや、各種サントリーの飲料、キリン一番搾りなどを担当してきた方。数々の著名なクリエイティブに携わってきた著者が、そもそもの広告の役割、その中でのコピーの役割を整理し、さらにコピーを書くために求められるマーケティングの思考法、USP(Unique Selling Point)の抽出の仕方等、丁寧に書かれています。

コピーライター/クリエイティブディレクターとは「 商品をいじらずに、言葉を使って商品の価値を上げる人」

まず、最初に、コピーライターの役割を定義しています。著者曰く

コピーライター/クリエイティブディレクターとは何をする人なのか。それは、 商品をいじらずに、言葉を使って商品の価値を上げる人

ということ。端的ではありますが、非常にわかりやすい表現だと思います。では、言葉の力だけで、どうやって商品の価値を上げるのでしょうか?広告及び広告コピーの役割を次のように定義しています。

広告のクリエイティブとは企業や商品と生活者との関係をCreateすることを指します。 「言葉を使ってモノとヒトとの新しい関係を創り、商品や企業の価値を上げる」のが、広告コピーによる広告クリエイティブということです。

これをコピーライティングの本質であり、基本があると著者は言います。以前の広告の現場でも、良く『消費者の持つ「パーセプション(認識)」をどう変えるか』という形で、議論されることもありましたが、著者の「関係性」という言葉は、企業側からの相互性もあり、より馴染みやすい考え方です。

さて、そんな商品と生活者との関係性を新しく作るようなコピーを作る方法とは何か。何か創造的な能力が必要なのではないかと思われるかも知れませんが、著者はその基本を以下のように整理しています。

誰でも少し〝ツボ〟を押してやればコピーの本質を探る力はあると思います。 そのツボが〝USP〟と〝ターゲット〟ということです。(中略)自分が広告しようとしている〝モノ〟(=商品)はいったい何なのか。他の競合商品とどう違うのか。それを〝どんなヒト〟(=ターゲット)に売るべきなのか。これはコピーを考える上での基本中の基本。

著者も宣伝会議の講座などで、コピーライター見習いにコピーの書き方を教える際のエピソードとして紹介していましたが、多くの人が、コピーを書く課題を与えると、いきなり書き出すと言います。著者はコピーを書く前に、このUSP(Unique Selling Point)となる商品の(差別化出来る)特徴と、ターゲットである生活者を理解することが基本であり、重要であると述べます。

大きな広告代理店だと、これらを整理するのがマーケティングプランナーやストラテジックプランナーと呼ばれる別の専門職の人がやったりします。もちろん、彼らのまとめるような市場調査等のデータ類も大事ではありますが、コピーライター自らもまた、これらを考えることが重要であると著者は言います。

実際、自身も、以前の広告代理店の営業と言う立場で言うのもおこがましいですが、こうしたプロセスを踏まない、もしくは考えの浅いクリエイティブを見ることもありましたが、そうしたクリエイティブはやはり上っ面だけのものになってしまっていると感じることが多々ありました。実際に商品を体験したり、売り場を見てみたり、使用しているユーザーの声を聞いてみたり、今で言えば、デザイン・シンキング(デザイン思考)における消費者の観察・インサイト(洞察)の抽出といったクリエイティブ思考をする上で欠かせないプロセスであり、これをあまりに分業で行ってしまうと、クリエイティブやマーケティング戦略自体もちぐはぐな一貫性のないものとなってしまうのではないでしょうか。

著者は最初の章の締めとして、こう記しています。

コピーライターは、最低限のマーケティング知識を持っておかなければいけないし、それをツールとして使えないといけないのです。この章のテーマである「広告コピーを考える手順」のほとんどの部分にマーケティング的思考が関わってきます。(中略)コピー作業の中で、机に向かってペンを走らせる(あるいはPCに向かってキーボードを叩く)作業は全体の1割ぐらいと思ってください。その手前の「マーケティング的」作業、つまり「考える」が9割です。競合を調べ、商品のUSPを見極め、ターゲットを決め、彼らの欲求や不満、不安に思いをはせる。こういったことが「コピーを書く」ということの本質なんです。

キャッチフレーズの役割はターゲットに、「自分に関係ある話かも」と一瞬で感じてもらうこと

ここから、具体的なクリエイティブ(コピー、タグライン、CMなど)を考える、作る際のポイントが紹介されていきますが、非常に平易な表現で説明されており、クリエイティブ職でない人にとっても分かりやすく整理されています。

例えば、良く聞く「タグライン」や「キャッチフレーズ」についても、以下のように定義しています。

キャッチフレーズは何を表現すればいいのか。アメリカの往年の名コピーライター・ジョン・ケーブルスは重要な要素を4つ挙げています。それは、

  1. ターゲットの利益
  2. 新しさ
  3. 好奇心
  4. シンプル&スピーディ

です。一言にまとめると、 ターゲットに、「自分に関係ある話かも」と一瞬で感じてもらうこと。

と、言うような感じで、非常にシンプルです。では、どうすれば良いキャッチコピーが書けるのか。前章の基本スタンスを前提としたうえで、具体的なノウハウについても紹介してくれています。

コピーを書く時、「コピーライター」として書いてはいけません。もしその商品のターゲットが主婦なら、あなたは「主婦」として書くんです。役者のように主婦になり切って。そして、主婦ならこんなこと言われたら響くだろうな、と想像しながら自分のコピーを評価するんです。そのためには、いろんな世代や業種の人たちと交わるのがいいです。

また、広告は当然、グラフィックとコピーからなるものだけでなく、映像や音楽を組み合わせたテレビCMもあります。著者はテレビCMは商品・サービスの情報を「伝える」だけでなく、「疑似体験」をさせる役割を担っていると定義しています。

またブランドなどについてもわかりやすく説明されており、マーケティングやブランディングを学んでいない人にもわかりやすい内容になっています。

コピーライターが最も養わないといけない能力とは、 「聴く能力」

最後の章では、若手コピーライターとして持つべき心構えを紹介してくれており、これから広告業界を目指す人、若手クリエイターにとっても参考になるのではないかと思います。

例えば、最初から、秀逸なコピーがさっと書けるわけではないので、そんな中で、著者が若手に求めるものとして以下のような指針を示してくれています。

若手が担うべき役割とはなんでしょう。CD(クリエイティブディレクター)の立場で言うと、2つです。1つは、コピーの依頼をする際に、CDの出した方向性を理解して、それに沿ったアイデアを出すこと。もう1つは、CDなどのベテランが考えつかない若々しく斬新なアイデアを出すことです。

当然ながら、長くクリエイティブをやっているCDに対して、商品やブランドへ理解、生活者への理解、ボキャブラリーの量など、圧倒的な差がある中で、当然期待を上回るものを出したいという気持ちはあるでしょうが、まずは、CDの出した方向性をしっかり理解すること、さらに、若さを生かした斬新なアイデアを。という二段構えが重要です。

著者が若手に求める素質として、「聴く力」を第一に挙げています。

コピーライターが最も養わないといけない能力とは、 「聴く能力」 です。 「書く能力」ではありません。「聴く」とはオリエンや打合せに出て表面的な話だけメモを取ることではなく、発注主やCD、チームの課題、悩み、欲求、ゴール目標などの「真意を理解する」ということです。 たとえ小さなUSPであっても、商品の開発者はそこに人生を賭けていたりするものです。その話を上の空で聞いていたら、それだけで退場です。

実際に、最初のクライアントからのオリエンには、営業だけで参加することも多いですが、実際に詳細なクリエイティブブリーフ(クリエイティブ制作に関するクライアントから代理店への説明)の段階で、クリエイターの方にも参加してもらうと、鋭い質問をされることが良くあります。そこで、クライアント自身も気付いてなかったUSPに気付いたり、方向性の修正に入ったりします。個人的には、プレゼンの巧拙よりも、ここでの質問力が高いクリエイティブの方を見るとしびれます。

また、最後には、非常に基本的ですが、新社会人の方には共通して重要だと思えるメッセージを以下のように残してます。

最初に、上司であるCDを喜ばせましょう。同僚のデザイナーを、広告会社の営業さんを、チームの仲間を、喜ばせることから始めましょう。 若手コピーライターには、まず自分が喜びたい、という人が多いです。中には日常業務はテキトーで、公募の広告賞は目を血走らせて必死、そういう人もいます。愚かなことです。日常業務の中にこそ、喜ばせることのできる人がいます。周囲を喜ばせ、広告主を喜ばせ、多くの生活者を喜ばせて報酬をいただくのが僕らの仕事。どうやればCDは喜ぶのか?どうやればデザイナーは、営業さんは、チームのみんなは喜ぶのか?まずはそれだけ考えていればいいです。それだけ考えていれば、周囲があなたを引き上げてくれます。気がつけば1人で年間の売上げ1億円とか。そのぐらいの数字は不可能じゃないです。

コピーライターに限らず、まずは目の前の人を喜ばせてあげること、それを愚直に続けることが、自然と自信の評価を高めていくというのは、本当にそうだと思います。この「どうすれば喜んでもらえるか」という思考を繰り返していくことは、特にコピーライターのように、いろいろな立場にたった視点をもって、考える必要がある職種には本当に重要な資質にもつながるものだと思います。

本書は、タイトルからは、何かコピーライターの裏話でも書いてあるかのような印象を受けますが、書かれている内容は、本当にまっとうで、基本的な本当に基本的な内容です。でも、実際問題、それが出来ていない人が多いから、このような本が書かれているというのもまた事実なのではないかと思います。

なので、本書の基本スタンスをしっかり身に着け、実践することが出来たならば、きっと良いコピーライターになれるのではないかと思います。

本書は、広告業界を目指す学生、3年目くらいまでのコピーライターの方などの良い教科書になるのではないかと思います。

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