【書評】ストーリーで学ぶファイナンスの入門書 「パンダをいくらで買いますか?」

ビジネススキル

「ファイナンス」と聞くと、とっつきにくく、数字や計算式が多くて、会計(アカウンティング)のような面倒で、地味で、面白みのないもの、と思われる方もいるかも知れません。本書では、そんなファイナンスのエッセンスを非常にわかりやすく、ストーリーで教えてくれる内容となっています。

本書では「パンダをいくらで買うか」という、一見ファイナンスとは関係のなさそうなケースを用いてファイナンスや会計にまったく知識のない人にもわかりやすく伝えるよう説明した入門書です。「パンダをいくらで買うか」というのは、「企業やある事業に対して、いくら投資すべきなのか、投資しても良いのか」を決めるのと同様のプロセスであると言います。

パンダの値段を決めるのと同じように企業価値が算出できる

パンダやモノの値段を決めるのに、一つあるのが、そのコストから積み上げて値段を決める方法がありますが一方で、そのパンダが今後いくらの価値を生み出すかを元に値段を決める方法もあります。企業の価値算出にあたっては、後者の方法を使って算出していきます。例えば、その企業(パンダ)が今後、1年間でいくらの利益を生み出すのか、売上とコストから算出していきます。所謂キャッシュフローと呼ばれる概念について学びます。

また、ファイナンスに重要な要素として、現在の100万円と将来の100万円の価値の違いについても言及しています。そこから、将来生み出されるキャッシュフローの価値についての計算方法についても学んでいきます。収益還元法、別名ディスカウントキャッシュフロー法(DCF法)です。

これによってパンダの値段を導き出すわけですが、企業価値の算定もまったく同じ方法で求めることが出来ます。書き方は平易に書かれていますが、決して何かを略してしまったり、概念だけで終わっておらず、計算式や、すこし複雑な利率の計算方法も含めて紹介されています。

逆にそれだけでも、一見難しいと感じてしまうかもしれませんが、ファイナンスの入門書としては、非常にわかりやすい部類に入ると思いますし、概念だけにとどまらず、実践で、さらに学んでいく上で、意味のある一冊になっていると思います。

後半では、財務諸表の見方から、損益計算書、貸借対照表からキャッシュフロー計算のやり方、WACC(加重平均資本コスト)やROEの算出方法まで、より具体的な企業価値算定の考え方、計算方法も紹介されており、最後にはケーススタディを使って、実際にある新規事業への投資判断をどのように行うかを試す事も出来ます。

さらっと読める読みやすさと、読み込めば骨のあるファイナンスの入門書

計算自体は読み飛ばしてしまっても良いですし、企業価値や事業価値を算定する際に、どのような要素・要因をベースに算出しているのかを知るだけでも、ビジネスパーソンとしての視点が一気に変わると思います。じっくり読んでいくと、ファイナンスの面白さに気づけると思います。

自身はファイナンスとアカウンティングについて、昔中小企業診断士の勉強をしていた際に、軽く学んだ程度ですが、本書は大変良い復習になりました。金勘定の事となると、まずは会計(アカウンティング)から勉強する場合が多いと思います。損益計算書や貸借対照表の作成など、簿記3級程度の知識を必要とします。お金の流れ、企業がどう成り立っているのかを勉強する上では、重要ではあるのですが、正直あまり面白くないです。一方、ファイナンスは計算も必要ではありますが、会計の「管理」を目的としたものよりは、よりビジネス活動に近しい内容だと感じて、非常に面白かったですし、ファイナンスを学ぶことで、会計の意義・面白みを改めて感じたりもしました。

日頃仕事をしている中で、あまり財務・会計に触れることは少ないかも知れませんが、一度、自身の行っている仕事のお金やコストがどのように計算されて、企業の価値にどのように反映されているのか、企業活動を俯瞰して見てみると、仕事の見え方も変わってくると思います。

また、仕事だけでなく、自身がマンションを購入する時にも、ファイナンスの知識は役立ちます。投資用にせよ、居住用にせよ、大きな投資となるマンションに対して、どれだけ投資出来るのかを計算するのもファイナンスの考え方です。

社会人1年目の新社会人から、これから財務や会計、簿記の勉強をされようとしている方に、ファイナンスを勉強するうえで、お勧めの入門書です。

photo credit: Dave Dugdale via photopin cc

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