【書評】BCG流病院経営戦略 DPC時代の医療機関経営(エルゼビア・ジャパン)¥2,520 コンサルティングアプローチも学べる良書

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民間企業にかかわらず、組織が目的を持って運営される以上、その目的に向けて効率的な運営が行われる必要があります。

病院も同様。ただ、これまで病院経営に対しては、その性質上、効率性は強く求められて来なかったように思われます。しかし、日本は高齢化社会を迎え、今後さらに高騰する医療・介護財政を踏まえると病院経営においても、効率性が必要になってきています。

本書は、世界有数の経営コンサルティングファームのボストン・コンサルティング・グループ(BCG)が日本赤十字社の協力のもと、病院経営はもちろん、地域医療全般を広く分析し、病院経営における課題と提言を導きだしています。

一見、本書は医療機関関係者を対象とした内容の思えますが、決して、医療機関関係者でなくても、理解出来る内容となっています。

というのも、BCGも医療機関のコンサルティング実績がない中で、手探りで病院経営の課題を順を追って抽出していきます。非常に論理的なアプローチなので、読者も理解を深めながら、読み進めることが出来ます。

アプローチ方法はまさにコンサルテーション手法の王道。まずは財務分析を行い、病院経営の課題の本質を抽出します。そこから、病院の収支改善に必要な、2つの指標を導きだしてます。それは

「在院日数の短縮化による患者あたり単価の引き上げ、病床回転率を向上させる」
「病床利用率の向上により医業収益(売上)を上げる」

次に、これらの指標改善に向けて、現状の医療現場における障害は何かを、現場の観察・医師・事務方のヒアリングを通じて把握し、5つの要因を抽出し、それぞれに対して、エクセレントカンパニーならぬ、エクセレントホスピタルのベストプラクティス等から提言を行っています。

1.標準化の度合いが不十分
⇒クリニカルパスで診断・治療プロセスを標準化せよ

2.たこつぼの存在による部分最適化
⇒複数診療科・病棟にまたがった人・病床・設備の全体最適利用の仕組みをつくれ。

3.地域内での連携・役割分担の不足
⇒地域内医療機関の連携、役割分担を明確にせよ

4.「総合」病院化による「尖り」の不在
⇒「総合」病院から「尖り」のある病院へ進化を遂げよ

5.経営視点の未浸透
⇒「在院日数」と「新入院患者数」を必ず含むKPIを設定しモニターせよ

当然ながら、上記の提言を実践するには、それなりに高いハードルがあるものの、本書では実際に手を付けられる運用方法まで含めた提言となっています。医療機関へのコンサル実績のないBCGが、どのようにコンサルティングを行うのか、その手法が良く分かります。

1点残念なのが、あくまでも課題抽出と提言に留まっており、実際にコンサルテーションを行った実践結果がなかった点、多少説得力に欠けるかと思います。

本書の最後には、病院経営だけでなく、病院をクライアントとする医療機器メーカーや、製薬会社に対する提言も含まれており、上記課題解決に向けそれぞれが出来ることも提言しています。

病院関係者は、もちろん、医療機関を顧客とする関係者、地域医療を担当する行政関係者、また、コンサルティング・コンサルタントに興味がある人にお勧めです。

 

病院経営には関わらずBCGのコンサルティングアプローチを垣間見る

Amazon Vineの先取りプログラムで紹介いただいたので、たまたま手に取った本で、本業ともほとんど関係のない分野の本でしたが、上述の通り、コンサルティング手法を学ぶ上では、とても分かりやすい本だと思います。

コンサルティングを行う際、大抵はクライアントとなる企業の経営者や従業員の方の方が、その業界や課題についても詳しいはずで、それでも、コンサルタントという職業が成り立つのは、客観的な視点と、異業種でのベストプラクティスや知見・ノウハウを有してコンサルティングにあたるからでしょう。

本書も、病院経営のコンサルティング実績をほとんど持たないBCGのコンサルタント達のアプローチというのは、一般の企業のコンサルティングアプローチと同様です。

机上の空論だけでなく、本書ではおそらく多くの病院関係者の方のヒアリングや観察調査も行ったと思われますが、その中では、従来の固定観念に縛られている方も多かったと思われる。本書で紹介されていたような「病床利用率と在院期間の短縮化のトレードオフ」や「収支改善のための変動費の涙ぐましい削減」などもその一つでしょう。

課題及びその真因の抽出はいたって論理的で、納得出来るものでしたが、提言については、実際の適用事例までは描かれていなかったので、少し説得力には欠ける内容でした。ベストプラクティスから導き出した解決手法というのは、表面をなぞれば、すぐ適用できるものでもなう、組織の長や、その組織の文化・習慣など根付いたものとの影響もあり、簡単には成果は出ないでしょう。

自分は病院関係者でも、病院のコンサルティングの経験もない門外漢ではありますが、だからと言って本書がまったく意味ない、コンサルタントの描く良くある「絵に描いた餅」かと言えば、決してそうでもないのではないかと思います。

病院経営者の方は本書で述べられているような課題については、実際には既に把握されているのではないでしょうか。ただ、その課題へのアプローチ方法の一つの参考として学ぶことは出来ると思います。また、病院経営者ではなく、現場で働く方々からすれば、こうしてある程度俯瞰で病院経営の課題を読み取ることで、日頃の課題意識も変わるかと思います。

病院経営を学ぶ1冊

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