【書評】共働きでより重要になる子育てにおける父親の役割とは 「8歳で脳は決まる!子供を救う父親の力」平山諭

ワーク・ライフスタイル

近年、脳への注目が高まっていますが、その脳を育てるには子どものうち、特に8歳までが重要です。この8歳という時期は、家出や万引きなどの問題行動が増える時期でもあり、子ども自身が反抗期を迎え、自身のアイデンティティを確立していく上でも重要な時期です。その前に、心の基礎を作っていかなければ、その後、変えるのは難しくなってきます。

8歳までの脳の育て方で、子供一生が大きく変わる

本書では、8歳までに脳を育てることの重要性、どうやって脳を育てるのかの具体的な方法を紹介しています。また、少年犯罪やその前兆となるような症例から、子どもの心に何が足りていないのか、どのような原因が考えられるのかを分析し、8歳までの親の接し方の重要性を説いています。

本書では、子育てを以下のように捉えています。

脳が言葉や動作などの行動を生み出しますので、子どもの成長を促すことは、すなわち脳を育てるということになります。脳の神経回路は環境により変化するものです。子育てとは、子どもの脳を育てる仕事だと言って間違いはありません。

では「脳を育てる」とはどういうことか。

脳の神経細胞をつなぐシナプスを通る神経伝達物質のコントロールをすることです。神経伝達物質には様々あり、ドーパミンは「楽しい」と感じる時、セロトニンは「満足感・幸福感」を、ノルアドレナリンは「恐怖・不安・緊張」を感じた時に分泌されます。

こうした脳の構造を踏まえたうえで、どのようにして脳を育てていくかも紹介されています。

「みつめる」「ほほ笑む」「話しかける」「触る」「ほめる」などの関わりを通じて、セロトニンの分泌を促し、安心感を感じさせたり、話しかける際に「リズム」「テンポ」行動に「変化」を活用することでドーパミン系分泌を促進し子どもの注目を高めたり、「快感」「緊張」などによりノルアドレナリンの分泌を促すなどのスキルが紹介されています。

これらは決して難しいものではないですが、日頃の子どもへの接し方を思い返して、なにか不足している、偏っているようであれば、試してみると良いかも知れません。

少年犯罪についての章や、チックや爪かみなどの子どもの気になる症状の章では、「もし自分の子どもがこうなったら」と不安になる面もありますが、その多くがセロトニンなどの幼少期における安心感の不足が原因と分析されており、そうならないためにも、上述のスキルを用いながら接することを増やしていくことが重要です。

脳を育てる上での父親の役割とは

子育てにおいては、母性・父性をバランスよく持って育てていくことが必要です。男性が父性を、女性が母性を持っていると思われがちですが、実際には男性も女性も両方持っており、その割合の問題です。では、本書のタイトルでもある、父親の役割とは何か。

本書では父親は「行動の価値基準を与える人」であるとしています。

男脳と女脳というのも以前話題になりましたが、感情を言葉で表すことが得意である男脳、父親が言葉を通じて、物事を伝えていくことが、価値判断の基準となるものを伝えていく上では効果的であると言います。

また、口頭だけでなく、後から読み返すことの出来る文字、つまり読書なども価値基準を作るうえで重要な要素となります。そのため、子どもに読書の習慣を身につけさせるのは、父親の重要な役割なのかも知れません。

母性が「思いやり・やさしさ・世話する気持ち・気配り」などのつながりを教えるものだとすると、父性は「理想・良心・責任感・批判」などの価値判断を教えるものであり、時に厳しくしていく必要もあります。

変えやすい所から変える、変わりやすい所から変わる。現在、子育てや家庭環境に問題があると感じられている方はもちろん、これから子育てを行っていくお父さん、お母さんにも是非読んでいただきたい一冊です。

脳科学と言っても決して新しいことをするわけではない

自身が子育て中ということもあり、読んでみました。最近、テレビでも脳科学の分野が注目されています。久保田カヨ子さんなど、脳科学を活用した子育てを積極的に推進し、そのためのスクールもあり、今後も、こうした分野は拡大していくことが想定されます。

何か脳科学を活用するというと、子育てを科学的に分析・分解し、味気ないものにしてしまうような気がして、個人的には抵抗があったのですが、決してそんなことはなく、ただ昔ながらの子育てに、新たな視点を加えるという意味で、とても重要であると感じました。

「脳が育つ」ということは実感しにくいですが、子どもと直に接し、反応を見ていれば分かってくるものでしょう。ただ、これが将来どのように影響するのかは、やはり分かりません。本書のスキルを存分に活用したとしても、うまくいかないことも出てくるでしょう。

子育ての王道はないものの、失敗を回避する方法ある

ビジネスの世界にいると、どうしてもビジネスと比べてしまうのですが、経営においても、経営の定石と呼ばれるものがあります。リーダーの戦略、フォロワーの戦略や弱者のためのランチェスター戦略など、しかし、こうしたビジネス書や経営学者、コンサルタントの描いた戦略通りに進めたとしても必ず成功するとは限りません。ただ、失敗する可能性を低減することは可能であると考えています。

子育てについても似たところがあって、本書で言うようなスキルを使えば、絶対に問題のない子に育つかと言えば、そうではないでしょうが、幼少期において、母性による安心感や、父性による厳しい教えなどが欠如していれば、やはり問題を抱える可能性が高いと考えられるでしょう。

子育てにおいて、あまり多くの情報に左右されてしまうのはいかがなものかと思いますが、脳科学という信ぴょう性の高いアプローチをひとつの軸とすることは有用ではないかと思います。

また、本書ではあまり多くはさかれていませんが、やはり父親の役割というものが一つ明確になったのは収穫だったと思います。「価値判断の基準を与えるもの」。そのためには、父親自身の価値判断の基準を持つことが必要であり、まだまだ学んで、考えていかなければいけないと感じた次第です。

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