【書評】「ひとつ上のアイディア。」あのトップクリエイターたちは、いかにしてアイディアを生み出しているのか?

ビジネススキル

積読のうちの一冊。広告代理店に転職する前から、購入はしていたものの、代理店に転職してからもイマイチ手が伸びませんでした。そんな中、最近、あるプロジェクトで、日頃の仕事とは異なるメンバーによるプロジェクトで、新しいプランナーの方と仕事をすることになり、改めて、こうした職種の方の思考法を学んでみようと思い、ようやく手にしました。

本書は、「企画稼業」と言われるトップクリエイター達20人のアイディアづくりについて、各人クリエイターの方の考えを、「でっかいどぉ。北海道」「恋を何年、休んでますか。」などで知られるコピーライターのコピーライターの槇木準氏が取りまとめたものです。クリエイターには、広告関連のコピーライターやクリエイティブ・アートディレクターが多く含まれますが、その他にも建築家やプロデューサーと言われる方々も含まれています。

具体的には以下の方々です。

  • ソフトバンクをはじめとする数々のヒット広告を手がける佐々木宏(シンガタ)
  • 何十年もトップを走りつづけている大島征夫(dof:クリエイティブディレクター)
  • 広告の革命家と呼ばれる岡康道(タグボート:クリエイティブディレクター)
  • 今や、何かしらら話題になる取り組みの多くに絡んで、幅広く活躍をつづける佐藤可士和(サムライ:アートディレクター)
  • 世界的な映画作品の美術監督もつとめる建築家の竹山聖
  • 多田琢(タグボート:CMプランナー)
  • 中島信也(東北新社取締役:CMディレクター)
  • 安藤輝彦(博報堂執行役員:クリエイティブディレクター)
  • 檍満子(イキインターナショナル代表:服飾デザイナー)
  • 岩崎俊一(コピーライター・クリエイティブディレクター)
  • 大貫卓也(大貫デザイン:アートディレクター)
  • 團紀彦(團紀彦建築設計事務所代表:建築家)
  • 山本幸司(博報堂:クリエイティブディレクター)
  • 小沢正光(博報堂執行役員:クリエイティブディレクター)
  • 柴田常文(博報堂C&D代表:クリエイティブディレクター)
  • 中村禎(電通:コピーライター)
  • 児島令子(コピーライター)
  • 杉山恒太郎(電通執行役員:クリエイティブディレクター)
  • 副田高行(副田デザイン製作所:アートディレクター)

彼らのようなトップクリエイターが継続して、優れたアイデアを、どのようにして生み出しているのか、その視点であったり、思考方法であったり、環境づくりであったり、それぞれにオリジナリティのある方法論が展開されており、大変参考になります。決して、突飛な方法でもなく、共通するものもあり、今アイデア出しに困っている方にとっては、すぐに使える実践的な本でもあります。

以下で、自身が気になった点、参考になった点を挙げてみます。

「クリエイティブ・ディレクターの基本姿勢は、尊敬と嫉妬のそれぞれが50%ずつある状態」大島征夫(dof:クリエイティブディレクター)

大島氏はクリエイティブディレクターとして、佐藤雅彦氏、佐々木宏氏、岡康道氏、多田卓氏等数々の著名なクリエイターとも仕事をしてますが、自分に出来ないことをクリエイターには望むと言います。JR東日本のダイヤ改定キャンペーンを事例に、その開発プロセスを紹介しています。言われれば、覚えている方も多いと思いますが、小泉今日子を起用しジャンジャカジャーンというコピーを使用したあれです。

[youtube https://www.youtube.com/watch?v=6lEOPRVFiFw&hl=en&hd=1]

この仕事は、CMプランナーとして、佐藤雅彦氏、岡康道氏が関わっていたようですが、大島氏は自身が持ちえない視点に大きなショックを受けたと言います。大島氏はクリエイターには、まずは「尊敬の気持ちを持って」仕事を依頼し、最終的には「嫉妬させてくれる事」。そうさせてくれるのが良いアイデアであると言います。

佐藤可士和氏のコンサルティング的アプローチ

「アイデアはあくまで解決策だから、問題点がつかめていなければ、正しく考えることができない」佐藤可士和(サムライ:アートディレクター)

今やひっぱりだこの佐藤可士和氏ですが、本書の中で述べている事はいずれももっともな事で、突飛な事ではありませんが、おそらく、それらを徹底出来ている事が彼の優れているところなのかも知れません。例えば、「制作物はインターフェースであり、つくるのはそれを見たあとの感触」という言葉。確かに、制作の現場にいると、どんなCMを作るか、どんな新聞原稿を作るか、という視点にすぐに陥ってしまいがちですが、それを見た後に、どう思わせて、どう行動させるのか、が広告の目的である事を考えると、これはもっともな視点です。

そして、彼が今や企業の単なるアート部分や広告だけでなく、幅広く活躍出来ている点として、次の発言が特徴的だと思いました。

「アイデアはあくまで解決策だから、問題点がつかめていなければ、正しく考えることができない」
「クライアントが抱えている問題点を把握したら、ヤマを越える」
「最も大変で重要なのは、問題点を探し出すことだが、時間をかけて地道に取り組めば必ず明らかになり、同時に解決策も見えてくる」

このアプローチ手法は、まさにコンサルティング的なアプローチであると感じました。彼がアートディレクターという枠に収まらないのでは、クライアント企業の抱える課題を理解した上で、単に表層的な表現だけでないソリューションを提供しているからでしょう。また、彼はこうも言っています。

「表現のレベルでつくりたい作品などなく、いい作品・アイディアは、あくまでプロジェクトの成功に貢献するもの。」

自身のオリジナリティとクライアントファーストの間で

多田氏はアイディアの考え方について紹介してくれています。

「自分の趣味や興味をそのまま打ち出したアイディアにはオリジナリティがある。それがうまくハマればビッグアイディアになる。」多田琢(タグボート:CMプランナー)

「自分にとって理想的なCMをいま見た」と仮定することからはじめる。」自分がどういう感覚になるのか、後味になるのかを確かめる作業をすると言います。これは、佐藤可士和氏との考え方にも共通しますね。

また、彼は、その時に自身がハマっているマイブームをアイディアに反映することが多いと言います。そして、「自分の趣味や興味をそのまま打ち出したアイディアにはオリジナリティがある。それがうまくハマればビッグアイディアになる。」と言います。マーケット調査等の数字から導き出した結果は、みなと同じようなアイディアになってしまいがちです。ただ、そうは言っても簡単にアイデアが出てくるわけではありません。次のようなアイデア出しのむずかしさも語っています。

「これだというアイディアを見つけるまでは、とことん考え抜く」「本当にいいアイディアは、メモに書いておかなければ忘れるというようなものではない。」「いくら考えてもアイディアが浮かばないこともある。そんなときはひたすら待つしかない。」「アイディアを考えることが好きでなければ続かない。」

中島氏も、アイディアのオリジナリティについて語っています。「依頼相手を喜ばせる」という事を大前提に、自身の視点というものを大事にしています。これは多田氏の意見と共通する部分かと思います。

「仕事の依頼があるということは、自分に応えられる何かがあるということ。だから、自分自身を消し去らないように、人を喜ばせる自分になりきる。」中島信也(東北新社取締役:CMディレクター)

「資料や情報から物理的な特徴や性能以上のものを読み取り、それが世の中に対して持つ意味や生み出す価値を具体的に描いて見せる」安藤輝彦(博報堂取締役)

安藤氏は、アイディアを生み出す段取りについて語ってくれているます。その中で「肝心なのは、数字的な背景をきちんと把握した上で、世の中に対して商品の物語をどう描くか」であると言います。「物語を描くとはその商品ならでは、世の中での位置づけを考え直すこと」。残念ながら、クライアント企業から出されるオリエン資料にはそうした物語までは書かれていないことがほとんどです。

その商品が、日々の生活に対して、どういう影響を与えるものなのかを考えて、描くべきコンセプトを探していくことが、アイディアを考えるということであると言います。

そして、彼はそのアイディア・コンセプトのよしあしを判断する際に良く使った方法として「新聞広告の枠に落とし込んでみる」ということを行ったようです。これも、前述の佐藤可士和氏、多田氏の方法論とも共通するところですね。

トップクリエイターから学べる共通項

意外にも、多くのクリエイターに対するインタビューからは、共通する事項が多く見つかりました。本書では特にまとめられてませんでしたが、勝手ながら、共通項を次のように抽出してみました。

  • 理想的な結果・アウトプットから逆算して考える。
  • 本当の問題点を把握すれば、解決策も自然と見つかる。
  • 独りよがりにならない。自分の作りたいものではなく、そのプロジェクト・仕事の成功に貢献すること。
  • ただし、自身という特徴、自分らしさは活用する。
  • 世の中において、それがどういう意味を持つのか考えてみる。
  • 自身に出来ないもの、他人が得意なものについては、それも活用する。
  • 「考える」ことを徹底して行うが、集中できるのは一定時間のみ。環境を変える等する。

他にも具体的に参考になるものも多くありましたが、共通化していくとこのようなところが見えてきました。「ひとつ上のアイデア」を出す上での近道はなさそうですが、誤った道を進まずに、無駄なアイデアではなく、本当の意味で「アイデア」と呼べるものを出す方法ではないかと思います。

最近、広告代理店の営業として、企画に携わることはあるものの、自身で頭に汗かいて、集中して企画を考えたり、アイデアを出したりする事を怠っていたので、とても刺激になりました。また、営業としては、クリエイターたちが考えてきたアイデアをディレクションして、プロデュースしていく責任がありますが、そのアイデアを評価する上での指針としても有用ではないかと思いました。

広告代理店の人間はもちろんですが、企画と名のつく仕事や、いまやどんな仕事でも、アイデアが求められる時代ですので、幅日広く、ビジネスに携わる人間には参考になるのではないかと思います。

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