【書評】「Think no.47」今求められるコミュニケーション力の正体と育て方とは

ビジネススキル

企業が人材に求める能力として、良く言及されるのが「コミュニケーション能力」。しかし、このコミュニケーション能力というものの定義は非常に曖昧で、求められる側の人材としても、どんなコミュニケーション能力を高めて良いのか分からないのではないでしょうか。

今回のThinkでは「人を動かし、アイデアを生み出すコミュニケーションの力」と題し、様々な視点から、様々なコミュニケーションのプロフェッショナルによりコミュニケーションとは何か、そこに求められるものは何か、そしてそれらをいかに成長・育成させることが出来るのかについて特集されています。

本誌でも様々な視点から語られるように、やはりコミュニケーションはその時と場合によって、そして語る人によってもその定義や必要とされる要素は異なります。強いて共通点があるとするならば、その「時と場合に応じたコミュニケーションを取れること」こそが、共通のコミュニケーション能力と言えますが、これだと、ある意味何も言っていないに等しいので、各分野の専門家がそれぞれの視点で、コミュニケーションについて語っている点というのは、非常に参考になります。巷にあふれるような、「空気を読む力」や「異文化コミュニケーション」というものが絶対ではなく、コミュニケーションという双方向の活動である以上、自身の置かれている環境に応じて、参考となる事例があると思われます。

様々な視点からの「コミュニケーション論」

本誌に登場する専門家は国際紛争を解決するための活動を行っているNPO法人の瀬谷ルミ子氏(JCCP M取締役)、劇作家・演出家で企業向けにコミュニケーションの講師なども行っている平田オリザ氏(大阪大学コミュニケーションデザインセンター教授)、ソニーの出井社長のスピーチライターなどを勤め、今は未来をつくるリーダー育成を行う佐々木繁範(ロジック・アンド・エモーション代表)、プレゼンなどのストーリー・ロジックの組み立て方について語るのはデロイト トーマツ コンサルティングの河野英太郎氏、元スターバックスCEOの岩田松雄氏は、スターバックスの成長に欠かせないスタッフへのコミュニケーション手法について語ります。新しい時代のコミュニケーションという所では、これまでとことなる新しい職場、あたらしい働き方を実践しているStudio-L代表の山崎亮氏の語る、多様化する価値観を持つ人達とのコミュニケーションについても参考になります。

また、リーダーとしてのコミュニケーションという点では、USA Todayより「アントレプレナー・オブ・ザ・イヤー」を受賞した、起業家斎藤ウィリアム宏幸氏は、多様性のある米国企業での事例より、異文化人材のチームに対するリーダーシップについて語ります。一方で日本流のリーダーシップ、マネジメントとこれまでの日本的な根回しや阿吽の呼吸などに改めて価値を見出す主張を展開するのはアクセンチュアの作左部氏、重本氏は、日本的感性に裏打ちされた「リーダーシップZEN」という考え方も興味深いです。

以降では、それぞれのコミュニケーションに対する寄稿で参考になった点を挙げていきます。

説明しあい、共有点を探る「対話力」が求められている(平田オリザ氏)

「会話」は単なるカンバセーション、コミュニケーションとは「対話」であると言います。「対話」とは「異なる価値観を持った人たちと意見を合わせること。AとBを組み合わせて、Cという新しい概念を生み出せること」と言います。これまでの日本企業においては、同様なライフスタイル・価値観を持つ人達と「会話」だけをしていれば良かったものの、社会が多様化する中で、あらゆる人と対話できる能力が求められています。しかし、急にやれと言われて出来るわけではないし、平田氏は日本の教育において、学生時代にこうしたコミュニケーションについて学ぶ場がない点なども指摘しています。一朝一夕にことなるコミュニケーションスタイルが身につくものではないですが、「対話」の場を作る事で徐々にでも身につける事を推奨しています。

マジメ過ぎるコミュニケーションが効率性を低下させる。目的合理性に従い「崩す」ことが重要(河野英太郎氏)

日本企業に勤めていると、社内調整や社内政治に非常に気を配ります。日常的に接する上司に対しても、電話一本、メール一通入れるにも細心の注意を図るでしょう。評価権を持っている上司やお客様に対して、異常ともいえるマジメさ、丁寧さを追求するがあまり、非効率的になっていると河野氏は言います。特に日本企業では「マジメ=生産性が高い」という幻想があり、それが影響しているとも言います。そこで、コミュニケーションをある程度「崩す」ことで、より効率的になるわけですが、どこまで崩すかは「目的合理性」によって合わせます。例えば、日本の生産性が低い理由として、会議がありますが、会議も出る必要性を十分検討して、会議の目的と達成基準を明確化した上で、出席する事であったり、例えば上司から何か企画書や資料作成などを頼まれた場合でも、初めから完成形を持っていくのではなく、目次や概要を作成した段階で上司の確認を行うなど、です。全てにマジメに懇切丁寧に対応するのではなく、何が目的かを考えて、崩せる所は崩す事の重要性を説いてます。

一方で上司の立場では、どうか。それは、逆に相手に、必要以上のマジメさを求めない事となります。例えば、「ヒマを装う」「上機嫌を維持する」など。確かに、上司に報告に行こうにも、話かげずらいがために報告のタイミングを逸してしまう事などがありますが、話しかけやすい雰囲気を作るのは大事です。

相手の行動を変えることがコミュニケーションの目的。究極のコミュニケーションは「人間力」(元スターバックスCEOの岩田松雄氏)

岩田氏の記事からは、スターバックスの元CEOとして、従業員や遠く離れたスタッフとのコミュニケーションのコツが見えてきます。彼は、コミュニケーションは相手に「伝えた」だけでは意味がなく、「伝わった」結果、相手の行動が変わらなければ意味がないと言います。では、人を動かすコミュニケーションとは何か。非常にスキル的ですが、最初に結論、後に理由。相手に何をして欲しいのかを最初に伝え、その理由を述べる事で、指示が明確になることと、理由・背景を説明することで、能動的に動いてもらえるといいます。その上、「質」×「量」が重要であると言います。岩田氏が良く言う言葉で、「人は信じても、人のすることは信じてはいけない」。指示したとしても、忘れたり、誤ったりすることはどうしても発生する、それを防ぐためにも、情報発信や「ホウレンソウ」の頻度を増やすことで、「質」を担保します。

また、究極的にコミュニケーションは「人間力」であるとも主張します。「〇〇さんが言うなら信じられる」といったような事です。「どう伝えるか」というスキルと、「何を伝えるか」というコンテンツ、そしてその土台である「人間力」。それぞれを磨き、成長コミュニケーション能力を高める上で重要であると言います。

価値観が多様化した新しい働き方に合わせた、新しいコミュニケーションのあり方(Studio-L代表の山崎亮氏)

山崎氏は「コミュニティをデザインする」という、これまた新しい仕事に取り組んでおり、その取り組み方も、山崎氏が代表を務めるSudio-Lが受託した仕事を、個人事業主であるスタッフ25人に発注して仕事を進めると言います。

また、「かせぎ」と「まなび」のバランスを重視していると言います。朝の9時から夜の3時まで働く事もザラと言いつつも、「かせぎ」につながる仕事は、そのうち6時間程度で、「まなび」に残りの時間を割いている。「まなび」の時間は、会社にいる必要もなければ、自由に過ごして良いと言う。本を読むなり、他人のデザインや写真集を見たりするでも良い。そこで培ったものを「かせぎ」に充てることで、少ない時間で、効率的に「かせぎ」の仕事をこなす。

価値観が多様化している今、その人なりの価値化の探究を出来る時間を増やす、それを会社として許容すること、最終的に業務に還元される。これが、今の時代にふさわしい働き方ではないかと言います。

異質性のあるチームが価値を生み出す。多様な人材なチームのリーダーに求められるコミュニケーション能力(起業家斎藤ウィリアム宏幸氏)

山崎氏の記事では、価値観の多様化が避けられない中、いかにその中で、効率的・生産的に仕事をするかという視点でしたが、斎藤氏の記事では、異質性のある人材を集めたチームをあえて作ることで価値を生み出せると言います。米国ではダイバーシティ(多様性)の国であり、多様な人達と仕事をする中で、必然的に誰とでも仕事が出来るようなコミュニケーションが重要視されてきた。また、そうした中で、多様な視点が生まれ、新しい価値を生み出してきたとも言います。

そして、今後、日本も同様な社会に近づいていく中で、リーダーに必要なコミュニケーション技術として、いくつかのポイントを挙げていますが、至ってシンプルです。「メンバーの話を聞き、率直にコミュニケーションをとる」「コミュニケーションの基本はwhy」「チームの中のブラックスワン(意見やアイデア等を言えずにいるメンバー)を見つけよ」「アイデアを整理する」といった所ですが、いずれも、ポイントとしては「双方向」である事ではないかと思います。日本的な上司が決めて、部下が実行する、という一方通行なコミュニケーションではない点がポイントです。

日本的にコミュニケーションスタイルに日本らしさを追求したグローバルリーダーの姿がある(アクセンチュアの作左部氏、重本氏)

斎藤氏の言うような、欧米的なコミュニケーションスタイルを踏まえつつ、本記事では「リーダシップZEN」と称し、日本的コミュニケーションでのグローバルリーダー像を描いており、これまた非常に興味深いです。

重本氏はハーバードのMBAコースの中で、徹底的にディスカッションをこなす中で、自己主張を繰り返し、相手を否定することが目的化してしまっているような議論の中で、自身の主張でもって議論を戦わせるのではなく、議論の流れや論点の整理を行うという立場を取ることで、議論をコントロールし、リードしたと言います。こうした経験から、欧米型のリーダーシップのような相手の意見を上塗りするコミュニケーションスタイルではなく、日本的な、意見の調整・補正、全体のコンテクストの中での落としどころを見つけるような日本型リーダーシップと定義づけ、多様化する中で、これからのグローバルリーダー像に適していると言います。

では、「リーダーシップZEN」をいかにして、実行するのか。ポイントは次の3つ。「Step1:観察する」これは、誰がどのような意見を持っているのか、冷静に観察する事。あえて沈黙をすることで、神秘性・言葉の密度を高めることにもつながると言います。「Step2:モノサシを設定する」その場にいる全員が共感できるようなモノサシ、尺度を決めてあげること。「Step3:合意に導く」個人のエゴを見せずに、各人の主張をなだめすかしながら、議論の落としどころを決めていく。

日本人の内向き、一歩引く姿勢は、欧米型リーダーシップがもてはやされた際には弱点ともされたが、これからアジアの新興国等が伸びてくる中で、他者をうまく生かせるのは、日本的スタイルであるという主張は面白いです。

コンフリクト・マネジメントの手法(ATカーニー 笛木 克純氏)

笛木氏のコンフリクト・マネジメントに関する寄稿も、実際の現場で起こる事が、体系化されており面白かったです。経営の現場でもそうですが、営業の現場においても、常に発生するコンフリクトをいかにマネジメントするかが仕事でもあるので、参考になります。

まず、企業の戦略実行にあたって、実行段階で失敗するコンフリクト・マネジメントの失敗例として3つ挙げています。「丸呑み」、例えばある商品開発の際に、元々の方向性Aがあったのに、実行段階で営業部門より意見が出て、それを丸呑みし、また次は製造部門の意見も丸呑みし、などを繰り返し、まったく異なるものが出来上がって失敗するパターン。「無視」逆に現場の意向をまったく無視して、戦略を実行しようとしても、当然反対勢力や足をひっぱる人が出てきて、戦略がまったく実行されないパターン。「読み違い」コンフリクトの解消に取り組もうと、様々なステークホルダーの話を聞いて対応しようとしたものの、コンフリクトのポイントを読み違えてしまい、対処を誤るパターン。本誌での事例では、子会社の営業部門の統合に対して、統合そのものに反対しているのか、統合の方法について反対しているのかを読み違え、うまくいかなかった例などが挙げられています。

では、コンフリクト・マネジメントの手法とは何か。

  1. コンフリクトを前提として受け入れる。
  2. コンフリクトを見極める。
    コンサルティングの経験から、コンフリクトの発生は次の3つに収斂すると言います。ひとつは「手法についてコンフリクト」、これは良くある総論賛成、各論反対といった状況。「役割に起因するコンフリクト」は、その立場である以上反対せざるを得ないような状況、例えば、ある事業部を縮小する際に、その事業部のリーダーは部下のためにも反対せざるを得ない。「ビジョンに対するコンフリクト」は、戦略そのもの対して、その必要性や意義などについて疑問や懸念がある状況。コンフリクトを読み違えると対処方法を誤る事になり実行に結びつかない。
  3. コンフリクトを解消する
    留意すべき点は、客観的事実をベースに議論すること。そして、コンフリクトが発生しているポイントを互いに認識し、妥協点を探ること。それ以外のポイントでの無用な交渉や検討をしないようにする。

コンサルティングの現場では、あえてコンフリクトを活用する場合もあると言います。「デビルズアドボケイト(悪魔の提唱)」という手法。議論の幅や質を高めるために、今決まりつつある方向性にたいして、「あえて」チームメンバーが反論を行う。そうすることで、議論の矛盾点や不整合、見直すべき点を洗い出したり、組織としての求心力や団結力を高めることにもつながると言います。確かに、自身もコンサル時代に先輩のコンサルタントが、こうした手法をあえて使っていたのを思い出しました。

まとめ:

今、やたらとビジネスの現場で求められるコミュニケーション能力。日本的企業の所謂、中間管理職層が求めているコミュニケーション能力は、阿吽の呼吸で、言わなくてもわかるようなコミュニケーション能力を持った人だし、さらにその上の経営層にしてみれば、中間管理職層に対しては、画一的ではない多様な人材をリードできるようなコミュニケーション能力を求めていたり、語る立場や語る相手によって、求めている・求められているコミュニケーション能力は異なるものの、本誌のいくつかの記事から、簡単ですが、まとめると以下のようになるかと思います。

コミュニケーション力とは「聞く力」×「伝える力」

「聞く力」は観察したり、質問をしたりする事で、相手の意見や考えを導き出す力。そして、様々な意見を整理し、落としどころを見出す力。

「伝える力」は、相手を動かすために、目的合理性に合わせた効率的な伝え方でもって、「質」と「量」で伝える力。

そして、コミュニケーションの大前提として、みなが異なる価値観を有しており、コンフリクトは発生する前提のスタンスでいること。

書いてみると当たり前で、抽象的ですが、コミュニケーションという性質上、常に絶対の正解がないわけですが、こうした曖昧なものについて、自身の中で、定義づけておくことは重要で、自身の中で、コミュニケーション能力とは何か、また、その中で何が足りていて、何が不足しているのか、どう伸ばせば良いのか、それを理解しておくことが大事です。

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