インターネットはもちろん、ケーブルTV、DVR(デジタルビデオレコーダー)、DVD、ケータイ(スマートフォン)など、消費者のテレビとの接触時間は著しく減少しています。同じテレビでも、アメリカではCMの入らない有料コンテンツやケーブルテレビを見る層も増えており、ますますテレビCMは見られなくなってきています。
本書は、これまでのマスマーケティング、プロモーションの中心であったマス広告、テレビCMが崩壊する、のではなく、既に崩壊しつつある状況に対する警笛のみならず、そこからさらなる解決策として、最新の事例なども豊富に盛り込まれたものとなっています。
テレビCMを見なくなった消費者
第一部の「問題」では、まさにテレビCMが見られなくなってしまっている実態について、様々なデータを元に語られています。
一消費者として、言わずもがなではありますが、いったい一日でどれだけの広告に触れていて、そのうち、どれだけ頭に残っているのか。大抵の広告は無駄金としか思えないのではないでしょうか。デパートビジネスの先駆者ジョン・ワナメーカー氏の名言「広告費の半分が金の無駄使いに終わっている事はわかっている。分からないのはどっちの半分が無駄なのかだ」を出すまでもなく、様々な調査から、半分以上が無駄になっていると言います。
第二部では、解決策編。
まずは、変化した消費者の10の特徴をあげています。今の消費者は、ネットを活用する情報通であり、マスコミではなく、口コミを重視し、消費者同士が主導権を握っていて、その消費者同士はつながっている。また、企業の情報に対して懐疑的である。
様々なエンターテイメントが溢れる中、消費者が多忙であり、必要な情報以外は頭に入らない(目にも耳にも)、そして、要求が高く、ブランドロイヤリティがない。ネット環境、モバイルデバイスでいつでもアクセスできる。こうした消費者に対して、ブランディングとはどうあるべきか、そして、その中で広告はどうあるべきかを再考しています。それは、広告ビジネスのビジネスモデル自体の変革を求めるものでもあります。
新しい時代の消費者に向けた10のアプローチ
そして、第三部では、新しい10のアプローチを紹介。これまでの広告業界の脅威である一方、新しい道でもある、インターネット、ゲーム、オンデマンド視聴、体験型マーケティング、長編コンテンツ、コミュニティ・マーケティング、消費者作成コンテンツ、検索、モバイル、ブランデッド・エンターテイメント。これら新しいアプローチの成功事例と活用のポイントが挙げられており、非常に参考になります。
これらは日本でも比較的事例が増えてきましたが、まだまだこれらを効果的に活用出来ている企業は少ないです。そして、それはコミュニケーションを提案する広告代理店の責任でもあると思われます。
クロスメディア、メディアニュートラル、トリプルメディアなど、新しい考え方、言葉が生まれますが、依然として、その中心がTVであることが多いです。もちろん動くお金、インパクトの大きさから、そうなるのですが、それ以外の提案が出来ない代理店や、まだまだ考え方が古い広告主が多いのも事実。
そんな古い考えの広告代理店業界の方や広告を扱う企業担当者の方など、新しい考え方を取り入れる上でも、少し刺激的な内容ではありますが、そんな方にお勧めです。
本書は普段からチェックしているブログAd Innovator(https://adinnovator.typepad.com/)の織田浩一氏の監修ということもあって、手に取った本です。
こちらのAd Innovatorでは、海外のコミュニケーションの先進事例を紹介されています。
また、本書の著者Joseph Jaffe氏も、ブログで最新事情を配信しているので、こちらもお勧めです(もちろん、こちらは英語ですが)
jaffejuice
以前からコンサルタントとして、マーケティングのお手伝いはもちろん、コミュニケーション部分まで含めた戦略策定のお手伝いをしていたのはもちろんですが、代理店に転職した身として、改めて読んでみました。
代理店で働いた立場での本書の感想
業界外部から見れば、上記で挙げたような新たな潮流というのは当たり前のように肌に感じるわけですが、いざ代理店に入ってみると、やはりTV至上主義という感覚は否めないです。それでも、やはり新しい事に取り組んで行こうという流れはあり、まさに、自身が担当しているクライアントが求めているものもそういうものであったりするので、本書は非常に参考になりました。
自身などは、新たに広告の世界に入ったので、比較的ニュートラルに読めますが、広告代理店の人間がこのような本を読んだ時の感想を是非聞いてみたいものです。そして、本書を理解した上で、具体的にどう仕事に落とし込んでいくのか。
そして、広告主もまた、考え方を変えていかなければならないのでしょう。TVCMのような単発のものを、毎回競合プレゼンを行ってコミュニケーション開発を行うのではなく、より統合的にかつ、中長期と短期を含めたコミュニケーション戦略を考えていく必要があるように感じます。当たり前の事ではありますが、それが出来ていない企業が多いのは、従来の固定観念に未だに縛られているからでしょう。
こうした固定観念を取り払うのもまた、広告代理店の重要な役割であり、それを踏まえて代理店もまたビジネスモデルを変えていく必要があるように感じます。
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