【書評】女性が働くのが当たり前の社会に、男性にも意識の変革を 「ワーキングカップルの人生戦略」(英治出版)小室淑恵・駒崎弘樹

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自分も以前は「男が大黒柱として、嫁・子供を食わせていくんだ。男たるもの、それくらいの甲斐性は持たなければいけない。」なんて古臭い固定観念に囚われていたものですが、いざ、結婚して、家族を支えていく事の経済的な負担の大きさに、責任の重さに、一人つぶされそうになっておりました。

しかしながら、実際にはバブル以降、女性の社会進出という前向きの理由もありますが、男性の給与が年功にしたがいあがっていくという仕組みが崩れ始め、男女共働きという家庭の形はかなり普及してきました。(1997年には共働き世帯を、片働き世帯が逆転しています。)

本書では、こうした時代・環境の変化を踏まえて、男性が働き、女性が専業主婦という形のカップルではなく、共働きでいかに幸せなカップル・家庭生活を築きあげるのか、また、なぜそれが必要な状況なのか、具体的な日本国内における調査データや統計データを用いて、説明しています。

ワーキングカップルが実は当たり前。専業主婦なんてのは一部の特殊ケース

一時には、女性の社会進出が強く主張され、女性達もまた、専業主婦でなく、社会に出て働き、キャリアを築く事を望む傾向にありましたが、不景気のあおりを受けて、逆に今では専業主婦を志向する女性が多いようです。

しかし、本書では「専業主婦」がいかに特異な状態であるかを様々なデータから明らかにしています。上述したように、1997年には共働き世帯を、片働き世帯が逆転し、その差はどんどん広がりつつあります。男性が養わなければいけない、大黒柱でなくてはいけない、という固定観念を本書では「大黒柱ヘッドギア」と呼んでいますが、それを男性側も外さなければいけないと言います。

一方で、女性側もまた、これからの時代に何がアテになるか分からない中、自分で自分を養えるだけの経済力を持つべきだとも言います。確かに、会社の制度、待機児童問題などの社会環境から、子供産んで、男性と同じようにキャリア形成をするのは難しいかも知れませんが、子供が小さい頃は一緒にいなければいけない、などと言った思い込みはなくし、公共・民間の各種サービスを活用してでも、自身のキャリアについて考えなければいけないと言います。

小室氏の記述の中で、良い考えだと思ったので、引用させていただきます。小室氏が部下や後輩に言う言葉。

「結婚や出産を経てずっと働き続けるということは、自分を自分で食べさせていける、ということ。そのメリットは、結婚相手を地位や収入ではなく、愛しているかといういちばん大切な基準で選べることだよ」と言っています。そして、相手の男性にもその覚悟を伝えるように、ともアドバイスしています。
「私はずっと働いて、自分で自分を養っていくつもりであって、あなたに何かを背負わせるつもりはない。二人でいればできることも増えるから、知恵を出し合いながら一緒にやっていこう」と。

素晴らしいですね。こんなことを言えるような自立した女性に、僕自身は会った事はないですが、一昔前なら、「我が強くて、スキのない強い女性」として煙たがられたかも知れませんが、今の時代、モテる女性は、こんな自立した女性なのではないかと思います。

ワーキングカップルを実現するために必要な5つの戦略

著者の小室氏は(株)ワークライフ・バランスという企業のワークライフバランスを実践するための支援を行う会社の代表として、同じく駒崎氏は病児保育を行うNPOフローレンスの代表として、彼らも夫婦共働きの経験も踏まえ、男女両方の立場から、ワーキングカップルとしてうまくやっていく方法として、5つの戦略を紹介しています。

「コミュニケーション戦略」では、互いの価値観を知るための現実的な夢の語らいあい方として、未来年表をエクセルで作ってみることや、男女のコミュニケーションスタイルの違い(男性は、結論を出したがり、女性は単に話したいだけ、みたいな)事から、共同生活における、何かを辞めて欲しいことや、逆にやってほしい事、お願いしたい時にはほめたりするなど、どんな伝え方が良いのかといった、具体的な手法も紹介されていて参考になります。

「時間戦略」では、時間管理術です。これは、家庭における時間管理だけでなく、そもそも残業時間を減らすための効率的な働き方にも話が及びます。ワークライフバランスという概念からも、家庭と仕事を切り離して考える事は難しく、ワーキングカップルを目指す上では、家事を行えるだけの時間を捻出する必要があります。

続いて「妊娠・出産戦略」では、妊婦の夫としてやるべき事、妻への接し方から、情報収集方法、一方妻としては、夫をいかに出産に巻き込んでいくかなどの戦略が紹介されています。この辺りは実際に、自身は共働きではなかったのですが、これから迎える方には参考になるかと思います。この手の情報は男性側・女性側で、初めてと出産となると、そもそもの情報源がどこにあるかも分からない事が多いので、参考になります。また、女性にとっては、いかに産休・育休に入っていくかという点で、仕事の引き継ぎ方なども、周りにロールモデルが少ない場合が多いと思うので、参考になるのではないでしょうか。

そして、子供が生まれてからは「育児戦略」があり、共働きで重要になる「お金戦略」について紹介されています。

ある調査によれば、ワーキングカップルを実現しているカップルと、専業主婦の世帯では、世帯収入の格差がどんどん広がってきていると言います。本ブログではキャリアについての記事を書いていますが、今後の女性自身のキャリアだけでなく、男性のキャリア形成においても、パートナーとなる相手のキャリアとの相関は非常に強くなってきます

男性がキャリアチェンジや起業などの挑戦をしようと言う時に、片働きではなかなか挑戦しきれないでしょう。収入の面で、仕事を選ばざるを得なくなってしまいます。自立したキャリアを考える男性ほど、女性のキャリアに対してもシビアになるべきです。

是非、結婚をする前のカップルには、本書を互いに読んで意見交換を行った上で、結婚へと踏み出してもらいたいと思いますし、既に結婚していて共働きをしている方には、まま参考になるでしょう。片働きで、変に肩に力が入りすぎて、「大黒柱ヘッドギア」に縛られてしまっている男性も、自身の固定観念を壊す意味でも、読んでみると良いと思います。

男女ともにマインドセットの切り替えが必要

依然として、自分と同じように、「大黒柱ヘッドセット」のマインドセットの男性も多いでしょうし、むしろ、女性側に強いように思います。大学も出て、社会に出てそれなりのキャリアを積み上げても、妊娠・出産のタイミングで、家庭へ入って、そのまま専業主婦になる。

女性のマインドセットの問題だけでなく、会社や社会環境が、妊娠・出産を踏まえたキャリア形成の出来る仕組みになっていないことが非常に大きな要因です。所謂「M字カーブ」と言って、女性の労働者人口が、妊娠・出産のタイミング30代前後で大きく減少してしまう傾向です。

女性にとって働きやすい環境を作っている企業も多くあります。単に、女性を多く採用している会社、管理職に女性が多い会社、というだけでなく、産休・育休後にどの程度の女性が活躍出来ているのか、といった視点でも選ぶ必要があります。

上述した通り、男性もまた女性のキャリアについては意識しておく必要があります。これまで、女性が男性を職業やら会社、年収等で選んできた所があったかと思いますが、これからは男性も女性がどんな会社(育休・産休後も働き続けられる会社)で働いているのか、女性にそのつもりがあるのか、と言ったキャリア意識を問う必要があると考えます

女性ばかりに厳しいかも知れませんが、一方で、女性が経済的側面で自立をし始めた時、男性もまた、家事・育児において責任のある立場になることを忘れてはいけません。「家事・育児を手伝う」というスタンスではなく、「共に行う」という家庭においても、同じ立場で携わる必要があることも意識しましょう。

photo credit: Adam Foster | Codefor via photopin cc

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