【書評】「コトラーのマーケティング3.0 ソーシャル・メディア時代の新法則」(朝日新聞出版)フィリップ・コトラー、ヘルマワン・カルタジャヤ ¥ 2,520

マーケティングは時代と共に変化してきています。「マーケティング3.0」とは、そんなこれからの時代の変化に対応した、新しいマーケティングの考え方です。

工業化が進み、大量生産大量消費の時代には、作れば売れる製品中心に考えられたマーケティング1.0の時代。そして、市場が成熟するにつれ、競争が激化し、いかに消費者に選んでもらえるか、消費者を中心に考えたマーケティング2.0の時代。差別化やブランドに多くのマーケターが注力しました。

しかし、また社会は大きな変化を迎えています。

それは、IT技術がもたらした情報化、そして、ネットワークがつながることで、ソーシャルメディアにより消費者同士が繋がる時代。情報力を持ち、互いに繋がった消費者は、企業からの一方的な関係性ではなく、自らも「参加」するようになっており、企業は対等な関係性を築く「協働型マーケティング」が求められています。

また、グローバル化が進展する中、それに反発するかのように、ナショナリズムの高まり、文化的な衝突もまた起きています。グローバルに展開する企業にとって、国・地域の文化を尊重したマーケティングもまた、必要となってきています。

一方で、先進諸国はもとより、物質的な豊かさを越えて、精神的な豊かさを模索する時代において、スピリチュアルで、消費者の感性に訴えるマーケティングでなければ、効果が得られにくくなってきています。

本書は、そんな時代の変化を踏まえて、近代マーケティングの父、フィリップ・コトラーと、ヘルマワン・カルタジャヤ率いる東南アジアのコンサルティングファームが産み出した、21世紀のこれからの時代を見据えたマーケティングのコンセプト、企業・事業のあり方を考える指針となる本です。

時代とともに変化するマーケティングのあり方

こうした時代の変化については、ここ数年の間に「ネクスト・マーケット」や「フラット化する世界」「ハイコンセプト」等で提示された捉え方をもとに、これまでのマーケティング2.0だけでは機能しにくくなっている背景が述べられています。

そして、その解決策の方向性として、これまでの縦型のマーケティングから、企業もまた消費者と繋がりを持ち、コミュニティを作り、共に創りげていう「共創」の必要性を説いています。

また、ブランドはそうした消費者を中心としたコミュニティのものであり、ブランドと消費者を結ぶ信頼関係を築くのに必要な「3iモデル」を提唱しています。3iとは、Brand Identity, Brand Integrity, Brand Imageであり、これらが差別化され、消費者の頭の中でポジショニングが築かれている状態でなければなりません。

これはつまり、消費者の持つブランドと企業・事業が提供する価値の一貫性が重要であるということであり、この点はブランディングという観点においては、特に目新しい視点ではないかと思います。

本書が単なるマーケティング戦略に留まらないのは、この考え方に従い、これからの企業・事業の在り方を再定義している点にあるかと思います。

マーケティングが企業戦略の中核になる時代

企業は、この時代変化を捉え、企業として目指すビジョン、ミッションや価値観をマーケティングする事が重要であると言います。

対消費者はもちろん、価値を提供する従業員やサプライチェーンに対して、投資を行う投資家に対してもマーケティングを行う必要性があります。

その企業のビジョンや価値観には、企業の営利的なものだけではなく、より社会文化的な変化を創出が求められる時代であると言います。近年のCSRの高まりや、コーズマーケティングへの取り組みなどもこの流れにあるでしょう。本書では、こうした企業の存在意義、事業の意味について多くがさかれている点が特徴的だと感じました。

後半の8章、9章では、今後注目されるバングラディッシュやインドなどの新興市場におけるマーケティングの要点としてマイクロファイナンスやSBEについて。環境を意識した持続可能性を実現するためのグリーンマーケティングについて紹介されています。

こうした時代の変化はグローバルで見るとより顕著ですが、日本国内においても、こうした傾向は出てきています。

マーケティング担当者はもちろんですが、マーケティングに留まらない本書の内容については、是非経営者の方にも読んでいただきたい。

 

本書の一番の特徴。それは、マーケティングの対象が商品でも、ブランドでもなく、企業そのものであるという点であると思います。

以前より、企業のミッションやビジョンに大変興味をもっていました。前職戦略コンサルタントとして、戦略策定の支援をさせていただいていましたが、戦略に対する納得感がないと、どんなに良い戦略であっても、実行性を伴わない事を目の当たりにしてきました。それは従業員はもちろん、市場に対してもです。

戦略は、もちろん自社の経営や事業へのメリット、財務的、対競合との関係性において、取り組むに値するものであるという事はもとより、対市場、消費者に対してどのような価値があるのかを示せないと、従業員もついてこなくなってきています。

いまだに自社の論理だけ、自社の都合だけ考えて、戦略を立てている企業が多いのには驚きますが、依然1.0のマーケティングをしている企業も多いです。

近年、若い世代にとっては、社会的課題への取り組みというのは、仕事を選ぶ上でも非常に重要視されるようになってきています。

消費者においても、企業が社会的にどのような価値を提供しているのか、どんな未来・ビジョンを描こうとしているのかを考慮して、商品・企業を選ぶようになってきています。

2011年3月11日。東日本大震災においては、多くの民間企業が支援を行いましたし、今後も継続した支援を行う企業が出てくるでしょう。こうした、社会的課題が明確な時の企業の対応にも大きな差が出てきます。

インパクトとして大きかったところで言うと、ファーストリテイリングの支援の規模と迅速さ。そして、柳井代表個人の寄付金の規模もまた話題になりました。ヒートテックという自社技術の強みを活かした支援内容とあいまって、おそらくブランドへのイメージ向上への効果は非常に大きなものになったことでしょう。

また、ソフトバンクも孫社長の莫大な寄付と今後の役員報酬の全額寄付という対応はもちろん、様々な支援策を打ち出しています。

こうした比較的新興企業に対して、従来の大手企業郡の対応はどうでしょう?雇われ経営者では、こうした迅速かつダイナミックな判断は難しいのかも知れません。

この時の対応が今後の企業業績にどう影響するのか、大変興味深いところです。

また、こうした異常事態が収まってきた時の、企業の今後の対応も注目していきたいですね。

本書でも数多く紹介されていましたが、これからの時代を見据える上で参考になる本、マーケティングに関する本を以下に紹介しておきます。

 

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