【書評】「ビジネス人間学―「超」のつく成功者になる94の法則」ハーヴィ・マッケイ(日本経済新聞社)

本書は1988年の初版発行以来、世界80カ国で400万部も売られ、多くのビジネススクールにおいても利用されているというビジネス書の定番の一冊です。

お客様を知るということを体系的に考える

「人間学」とのタイトル通り、経営の戦略論やリーダーシップ論ではなく、ビジネスの現場、特に営業・マーケティング活動において必要とされる、ヒト対ヒトの関係性において重要な法則が紹介されています。

第二章、セールスの心得。特に本書の中でも秀逸と評価が高いのが「マッケイ顧客プロフィール66」。営業活動において、自社商品のことを知ること同等に、顧客のことを知ることが重要であると説き、顧客について知るべき66項目が挙げられている。氏名、役職、生年月日などの【基本情報】から、卒業した高校、大学などの【教育】、【家族】(配偶者の有無、結婚記念日、子どもの興味・関心など)、【職歴】(以前の業務、業界団体、職業上の目標、関心など)、【特別な関心】(奉仕団体、支持政党、宗教など)、【ライフスタイル】(病歴、行きつけの店、興味のある話題、個人的目標など)、【顧客と自分】(必要な倫理的な配慮、性格、顧客の会社の重要事項など)。などなど、非常に子細に渡る項目が必要とされる。おそらく一顧客について全て埋めるだけでも大変な労力となるだろうが、ここまで知ってもらえる、気にかけてもらえると顧客が感じられるならば、ビジネスにおいても、長期的に良好な関係性構築に繋がるものと考えられます。

第三章、交渉の技術。「交渉に勝つための最強の武器、それは合意する前に席を離れる能力」「長く待たせる相手ほど取引を望んでいる」などの交渉術は、営業はもちろん、トップ営業などの大きな決断が求められる場においては、参考になる。

第四章、上司の知恵では、上司として、経営者としての部下、従業員、取引先との関係性について。「顧客を扱うように納入業者を扱う」などは、結果としてそれが自身のために良く働く納入業者となってもらう上でも重要である。 著者は日本の経営についても良く知っており、かつ良い面を把握している。「正々堂々としたストライキ」では、コマツの社員が働きつつも、黒い腕章をすることで、ストライキの意思表示をしている例を挙げ、経営側と労働者側双方が互いの利益を尊重している関係性を示している。

法則50「人をこっぴどく叱る最善の方法」では、自身が上司として部下を叱る際に、相手に自身の席に座らせ、その立場であれば、自身に何と言うか、問うという方法が紹介されている。確かに、これは自身で改めて考えますし、上司としても無駄に非難する必要もなく、効果的な叱り方だと思われます。

「マッケイ顧客プロフィール66」の他にも、「競合他社プロフィール」というものもある。戦略論においても3C分析(Company:自社、Customer:顧客、Competitor:競合)というフレームワークがありますが、競合において知るべき項目が紹介されており、こちらも実践的に使えそうです。

顧客と接し、日々交渉を行う営業マンはもちろん、企業のトップとして、取引先や提携先との交渉を行う経営者にもお勧めの本です。本書は「アメリカCEOのベストビジネス書100」にも選ばれています。

ビジネス人間学―「超」のつく成功者になる94の法則 (BEST OF BUSINESS)
ビジネス人間学―「超」のつく成功者になる94の法則 (BEST OF BUSINESS) ハーヴィ マッケイ Harvey Mackay

日本経済新聞社  2006-02
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「人間学」というからには、結構泥臭いものを想定していたのですが、確かに泥臭い。こうした泥臭い営業活動などは、どことなく日本的なものであるという印象も強いのですが、こうした本がアメリカで書かれ、長くベストセラーでいるというのは不思議な感じです。

とはいえ、本書で書かれているような顧客を知りつくし、人間関係をいかに構築していくか、その重要性については実務経験を多く積んだ方ほど実感されることだと思います。第二章で紹介される「セールスの心得」は、営業職の方の中では暗黙知としてはあるのかもしれませんが、「マッケイ顧客プロフィール66」などは、しっかり情報共有を行い、企業として情報を有することが重要であると思います。

また、現在facebookの日本での普及も広がっていますが、こうしたソーシャルネットワークにおける個人の情報は、顧客(担当者)について知るうえでも、活用されていくのかも知れません。以下、マッケイ顧客プロフィール66の項目。日本用や企業ごとにカスタマイズは必要かも知れません。

【顧客プロフィール66】
作成日: 更新日: 作成者:
■顧客
1.氏名、愛称、役職
2.会社名および所在地
3.自宅住所
4.電話番号(会社、自宅)
5.生年月日、出身地
6.身長、体重、際立った特徴
■教育
7.高校、大学の卒業年度、専攻
8.修士号、博士号の有無
9.大学時代に属していた男子、女子学生社交クラブの名称、好きなスポーツ
10.大学時代の課外活動
11.顧客が大学に行っていない場合、そのことを気にしているか。大学に行かない代わりに何をしたか
12.兵役についたか。除隊時の階級、兵役に対する意識
■家族
13.結婚(未婚/既婚)、配偶者の名前
14.配偶者の学歴
15.配偶者の関心、活動、所属団体
16.結婚記念日
17.子どもがいれば、その名前と年齢。顧客に親権はあるか
18.子どもの学歴
19.子どもの関心(趣味、問題行動など)
■職歴
20.以前の業務経験(最近のものから)会社名、所在地、在職期間、役職
21.現会社での前のポスト:役職、在職期間
22.オフィスでのステータスシンボル
23.業界団体に属しているか。業界団体における役職
24.師事する人
25.わが社の社員とどのような仕事上の関係にあるか
26.その関係は良好か。その理由。
27.わが社にほかにもこの顧客と知り合いがいるか
28.どのような知り合いか。関係の特徴
29.顧客の自社に対する意識
30.顧客がもつ長期の職業上の目標
31.顧客がもつ当面の職業上の目標
32.現座、顧客の最大の関心はなにか。会社の繁栄か、自分個人の幸福か。
33.顧客は現在と将来どちらのことを考えているか。その理由
■特別な関心
34.クラブまたは奉仕団体
35.政治活動、支持政党。政治は顧客にとって重要か
36.地域社会での活動、内容
37.宗教、活動
38.絶対に話題にしない事項(例、離婚したこと、断酒会メンバーであることなど)
39.顧客は(仕事以外で)どんな問題に強い感情を抱いているか
■ライフスタイル
40.病歴(最近の健康状態)
41.飲酒するか。種類と量
42.(飲まない顧客は)他人が飲むのは気に障るか
43.喫煙するか。吸わない顧客は喫煙者の近くや喫煙場にいるのを嫌うか
44.昼食の行きつけの店。夕食の行きつけの店。
45.好みのメニュー
46.他人に食事をおごってもらうのを嫌うか
47.趣味とレクリエーション。読書の傾向(お気に入りのウェブサイトを含む)
48.休暇の習慣
49.スポーツ観戦への興味(スポーツの種類とチーム)
50.所有する車の種類
51.興味のある話題
52.好印象を与えたがっている相手
53.その相手にどのように思われたいか
54.顧客を描写するのに使う形容詞
55.顧客はなにを達成したことを最大の誇りにしているか
56.顧客の長期の個人的な目標はなんだと思うか
57.顧客の当面の個人的な目標はなんだと思うか
■顧客と自分
58.顧客に対するとき、どのような道徳的もしくは倫理的な配慮を要するか
59.顧客はあなたや、あなたの会社や、競争相手に対して義理があるか。その義理とは何か
60.あなたが予定している提案は、習慣の変更や習慣に反する行動を顧客に求めるものか
61.顧客は他人の意見をまず気にするタイプか
62.顧客はきわめて(自己中心的/道徳的)なタイプか
63.顧客からみた重要な問題はなにか
64.顧客の会社の経営陣にとって優先事項はなにか。顧客と経営陣のあいだに意見の対立はあるか
65.その問題であなたが手助けできることはあるか。どのように手助けするか。
66.その問題について競争相手はあなたよりよい答えをもっているか。顧客についてネット検索したか。重要なデータがあれば添付。

備考

本書では、こうした実践的なノウハウなども数多く紹介されていますが、ビジネス哲学的なものも多く、一見するだけでは、飲み込めないものも多く、繰り返し読みながら、これまでのビジネス経験などを踏まえて読むことで、より深い理解につながるものと考えられます。

 

 

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