【書評】「リーダーになる」ウォレン・ベニス 「リーダー」とは自己実現のための1つの資質

ビジネススキル

過去に例を見ない程の早いスピード、かつ大規模で大きな「変化」が進んでいる現在、ビジョンを描き、表現し、実現させるリーダーが今こそ求められています。

本書は、タイトル通り「リーダーになる」ために求められる資質や考え方、行動を、様々な組織のリーダーに対するインタビューや事例を通じて、抽出し紹介しています。

リーダーとは、自己実現を図る上で共通する必要な資質

しかし、本書では、表面的に出世し、組織を治める立場に立つものをリーダーとしているのではなく、本書に登場するリーダーは以下のような共通点を持っている言います。

「最初からリーダーを目指しているのではなく、自分を思う存分に表現する過程でリーダーになる」ということであり、その点では将来社長になりたい、何かの組織の長のためだけの本ではなく、どんな人にでも、自身で自分らしく生きていく上で参考になる考え方であると言えます。

本書の初版は1988年に書かれたものですが、2003年に改定された本書ではエンロンの不正会計事件や9.11の米国同時多発テロなどの大きな社会変化を踏まえて、特にリーダーに求められるものとして「誠実さ」に重きが置かれているように感じました。

本書は優れたリーダーの共通点として10章から構成されており、「現状を打破する」では、現状をあるがままに認識した上で、前向きに打破していくことを挙げている。「基本を理解する」では、前述の通り、リーダーとして持つべき指針やビジョン、情熱・誠実さ、信頼や好奇心と勇気が基本として挙げられています。こうした人間性の部分は様々なリーダー研修などでも教えることは困難であり、自らで身につけていく必要があります。

多くの経営書でも言われるように、本書でも「自分自身を知る」ことの重要性が説かれています。自分を知るための4つのレッスンが紹介されています。

  1. 自分の最高の教師は自分である(模倣する、役割を引き受ける、実践する、検証する、予想する、内面を見つめる、科学的に捉える)
  2. 他人を責めることを辞やめ、責任を引き受ける
  3. 貪欲に学ぶ
  4. 経験を吟味して真の理解に達する

などなど、単なるノウハウ本ではなく、すぐに実践するための具体的な答えがあるわけではないですが、参考になるポイントが非常にたくさんあります。本書は何度でも読み返したくなる手元に置いておきたい本です。

これからリーダー、マネジメント層へとなられる方、または目指している方。そして、前述の通り、より自分らしく生き、自分を表現していきたい方、全てのビジネスパーソンにお勧めです。

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リーダーシップについて書かれた本の多くは、基本的に企業の経営者やマネジメント職を対象とした本がほとんどであり、そういった立場を目指す人たちが主な読者層であると考えらるが、本書はあくまでも、「自分らしく生きていくため」のあり方としてリーダーを語っている点で、他書にはないものと思います。

なぜリーダーが自分らしく生きることにつながるのか。

現代社会においては、どんな人間でもなんらかの組織に属しています。最小単位としては、たとえば家族であっても、ひとつの所属組織として考えられます。そして、地域やもちろん会社、学校、ボランティア団体、政治組織なども含まれます。

こうした組織の中では、組織の方向性があり、組織内での役割分担が決まってきます。しかしながら、指示を受ける立場であっては、自身の属する組織と、自身の欲求とが、常に一致するとは限りません。リーダーとなってその組織を自ら率いることで、自らが望む組織へと作り上げていくことができ、かつ自身の欲求ともマッチングさせることが可能になるわけです。

その意味で、本書は組織におけるリーダーシップ論というよりも、個人の自己啓発・自己実現に関する書籍であると思います。また、本書で紹介されているリーダーに共通する資質や考え方などは、リーダーにだけ求められるものではなく、それらを有することで、誰であっても、周りに影響を与え、自身の快適な環境を作り上げていくことが可能になると考えられます。

本書は何度もでも読み返したいと思えるものであり、とても参考になるポイントがちりばめられていました。以下、脈絡はないですが、気に入った記述を引用させていただきます。

昔のリーダーは「地図」に頼ることが出来た。しかし、ものごとがたえず変化し、これといった焦点もないデジタル時代のリーダーは「コンパス」に頼るほかない。

まさに、まだ見ぬビジョンを創り上げ、そして表現、共有し、組織をそのビジョンへと導いていく存在であると考えます。

子どもが何かを学ぶのを”助ける”のではなく何かを”教える”というのは、子どもが自分自身をつくりあげるのを妨げる行為だ。

これは当然、子どもに限らない。リーダーとして、上司として、部下に何か答えを与えるのではなく、そこにたどり着くための手助けを行っていくことが大切である。また自身が学ぶ立場である場合でも同様に、すぐに答えを求めるのではなく、その答えを見つけ出すための手助けを求めることが重要。

学習は人間を成長させる。人は学ぶことによって、知識を得るのではなく新しい人間になる・・・学ぶというのは、何かを得ることではなく何かになることなのだ(ギブ・エイキン)

これは自戒の念も込めて。

多くのビジネス書や本を読んで何かを学んだつもりになっても、それは知識として知っているだけであって、やはりその知識を踏まえ、自身の考えが変わったり、行動が変わったりしてはじめて「学んだ」ことになるのではないかと思います。

本書を読んだからと言ってすぐにリーダーになれるわけではないですが、何度も言うように、どんなビジネスパーソンにとっても、有用な考え方であると思います。もちろん、特にリーダーにとって重要であるとこは言うまでもないですし、すでに組織の中でマネジメント職として働かれている方は、単にマネジメント(管理)するだけでなく、本書のようなリーダーとしての人格を磨いていくことが、一段上でのマネジメントを行っていくことにつながるものと思います。

 

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